明石の四季と鯛!春夏秋冬で変わる明石海峡の鯛の味の違いを解説
こんにちは、明石めで鯛やの女将です🐟
明石は、古くから「食通の集う町」と言われてまいりました。
明石海峡の速い潮に揉まれて育った魚は、身が締まって味が濃い。鯛、たこ、穴子——どれも全国に名の知れた名物でございます。
そして鯛には、季節によって呼び名が変わるという面白い習わしがございます。桜鯛、麦わら鯛、紅葉鯛、寒鯛。同じ魚なのに、四季それぞれに名前がついているのです。
この記事では、明石海峡という海の特別さと、四季で変わる鯛の表情についてお話しいたします。そして最後に、今の明石の海で起きていることについても、正直にお伝えさせてくださいませ😊
1. 明石海峡とは、どういう海でしょう
明石海峡は、本州(兵庫県明石市)と淡路島のあいだにある、幅およそ4キロの狭い海峡でございます。
地図で見ると、ほんの細い水路に見えます。けれどここは、瀬戸内海と大阪湾を結ぶ唯一の東側の出入り口なのです。
明石海峡の特徴
- 潮の流れが非常に速い 日本でも屈指の急潮として知られます。鳴門海峡と並び称されるほどです
- 一日に四回、流れが変わる 満ち潮と引き潮で、海水が激しく行き来します
- 海底の起伏が激しい 岩礁あり、砂地あり、深い谷あり。魚の隠れる場所が豊富です
- 餌が豊富 速い潮がプランクトンや小魚を運んできます
- 明石海峡大橋 1998年に開通。世界有数の吊り橋で、明石の象徴でもございます
狭いところに大量の海水が押し込まれますので、流れは猛烈に速くなります。
この「速い潮」こそが、明石の魚を美味しくしている正体なのでございます🐟
2. なぜ明石の魚は美味しいと言われるのか
理由① 速い潮に逆らって泳ぐから、身が締まる
流れの速い場所で暮らす魚は、常に泳ぎ続けなければなりません。その結果、筋肉が発達して身が締まります。
穏やかな海で育った魚と、明石の魚。触ってみると、硬さがまるで違うのです。
理由② 餌が豊富
速い潮は、たくさんの餌を運んでまいります。イカナゴ、エビ、カニ、貝。明石の海は食卓が豊かな海なのです。
よく食べて、よく泳ぐ。これが身の締まりと味の濃さにつながります。
理由③ 海底の起伏
岩場があり、砂地があり、深みがある。さまざまな環境がそろっているので、魚の種類も豊富です。
理由④ 漁場が港からすぐ近い
これは意外と大きな理由でございます。明石の漁場は港からごく近く、獲ってすぐ水揚げできるのです。
遠洋で獲って何日もかけて運ぶのとは、鮮度がまるで違います。
理由⑤ 「昼セリ」という仕組み
明石には昼にセリを行うという独特の仕組みがございます。
朝獲った魚を昼にセリにかけ、その日のうちに出荷する。しかも活きたまま運ばれるものも多いのです。この鮮度管理の仕組みが、明石のブランドを支えてまいりました。
速い潮、豊富な餌、近い漁場、そして昼セリ。自然の条件と人の工夫の両方がそろって、明石の魚は名を成したのでございます😊
3.「食通の集う町」と呼ばれる理由
明石は昔から「食通の集う町」と言われてまいりました。
大げさに聞こえるかもしれませんが、これには理由がございます。
食通が集まる理由
- 魚の種類が豊富 鯛、たこ、穴子、鰆、イカナゴ、タチウオ、ハモ、アナゴ、エビ、ノリ。四季それぞれに名物がございます
- 鮮度が別格 昼セリと活け越しの文化。獲れたてが、そのまま食卓に上がります
- 京都・大阪から近い 食の都のすぐそば。料理人の目が厳しい土地柄です
- 料理文化が育った よい魚があれば、よい料理人が育ちます。そして料理人が育てば、さらによい魚が求められます
- 庶民の食文化も豊か 明石焼き(玉子焼)のように、気軽に楽しめる名物もございます
よい魚が獲れる土地は、日本中にございます。けれど「獲れる・運べる・料理できる」の三つがそろっている土地は、そう多くありません。
明石はその三つが重なった、稀な町なのでございます🐟
4. 鯛には、季節ごとに名前があります
さて、鯛のお話に移りましょう。
多くの魚は旬が年に一度ですが、鯛には年に二度の旬がございます。そして季節ごとに、美しい呼び名がついているのです。
| 季節 | 呼び名 | 特徴 |
|---|---|---|
| 春 | 桜鯛(さくらだい) | 産卵前。栄養を蓄え、体が桜色に。姿がいちばん美しい |
| 初夏 | 麦わら鯛(むぎわらだい) | 産卵後で痩せた時期。味は落ちます |
| 秋 | 紅葉鯛(もみじだい) | 回復して脂がのる。味がいちばん深い |
| 冬 | 寒鯛(かんだい) | 身が締まり、祝いの膳の主役に |
面白いのは、美味しくない時期にまで名前がついていることでございます。
「麦わら鯛」は、麦の収穫期にあたることからついた名。「この時期の鯛は避けよ」という先人の知恵が、名前として残っているわけですね。
褒めるばかりでなく、正直に記録する。こういうところが、日本人の観察眼のすごさだと思っております😊
【春】桜鯛|一年でいちばん美しい姿
春、桜の咲く頃。鯛は産卵のために浅い海へやってまいります。
このときの鯛を桜鯛と呼びます。
桜鯛の特徴
- 体が桜色に染まる 産卵期特有の婚姻色で、淡い紅色が濃くなります
- 栄養を蓄えている 産卵に備えて、たっぷりと
- 姿がいちばん美しい 一年でもっとも見栄えのする時期です
- 祝いの膳に重んじられてきた 入学、卒業、結婚。春の祝い事にはこの鯛を
春の明石は、鯛だけでなくイカナゴの季節でもございます。
解禁の日になると、この地域はどこの家からもくぎ煮の甘辛い匂いが漂ってまいります。ご近所同士で配り合い、遠方のご親戚に送る——春が来たことを知らせる贈り物でもあるのですね。
こういう文化が残っているのは、本当にありがたいことだと思っております🐟
【夏】麦わら鯛と、明石だこの季節
産卵を終えた鯛は、体力を使い果たして痩せてしまいます。これが麦わら鯛。
残念ながら、この時期の鯛は味が落ちます。昔の人は正直に、そう名前をつけました。
けれど明石の夏には、別の主役がおります。
夏の明石の名物
- 明石だこ 夏が旬。足が短く太いのが特徴で、身がぎゅっと締まっています。速い潮に流されまいと岩にしがみつくため、こうなると言われます
- 穴子 夏に脂がのります。明石の焼き穴子は、全国に知られた名物です
- ハモ 関西の夏の顔。京都の祇園祭にも欠かせません
- タチウオ 夏から秋にかけて。上品な白身です
関西には半夏生(はんげしょう)という節目がございます。夏至から十一日目ごろ、七月の初めです。
この日にたこを食べるという習わしがございまして、理由は「稲の根がたこの足のようにしっかり張りますように」という願いから。
明石では、この時期のたこが特に賑わいます。食べ物に願いを込める——やはりここでも出てまいりますね😊
【秋】紅葉鯛|味がいちばん深まる頃
産卵の疲れから回復し、再び脂がのってくるのが秋でございます。
紅葉の季節にあたることから、この時期の鯛を紅葉鯛と呼びます。
紅葉鯛の特徴
- 脂がのってくる 夏のあいだによく食べ、体力を取り戻します
- 身の甘みと脂のバランスがよい 味でいえばこの時期がいちばんという方も多くいらっしゃいます
- 冬に向けて、さらに太っていく
春の桜鯛は姿の美しさ、秋の紅葉鯛は味の深さ。
同じ魚なのに、季節でこれほど性格が変わる。そして日本人は、その違いに名前までつけた。どれほど鯛を見つめてきたかが分かるお話でございます。
そして秋は新米の季節でもございます。炊きたての新米に鯛の出汁が染みると、ごはん一粒一粒が旨みをまとって、香りまで変わってまいります。鯛めしがいちばん美味しいのも、この季節でございます🐟
【冬】寒鯛|祝いの膳の主役に
冬の鯛は寒鯛。身が締まって、脂ものっております。
そして何より、お正月がございます。
冬の鯛と、お正月
- 尾頭付きの焼き鯛 祝いの膳の主役でございます
- 「睨み鯛(にらみだい)」 京都を中心とした関西の風習。焼いた尾頭付きの鯛をお膳に飾り、三が日のあいだは箸をつけず、見るだけにする。「お正月のあいだ、めでたいものを絶やさないため」でございます
- 鯛の潮汁 あらから引いた澄んだ吸い物。お正月の朝に
- 鯛めし 家族が集まる食卓に
食べ物を「食べずに飾る」という睨み鯛の発想——これはもう、栄養や味の話ではございません。
鯛という魚が、それだけ特別な存在だったということでございます。
冬の明石はまた、ノリの季節でもございます。明石のノリは香りが高く、これも知る人ぞ知る名産でございますよ😊
9. 明石の三大名物|鯛・たこ・焼き穴子
明石といえば、この三つでございます。
明石鯛
速い潮に揉まれて育った、身の締まった鯛。姿、色、味——どれをとっても別格とされ、全国にその名を知られてまいりました。
料亭や寿司屋が指名で買い付けるほどのブランドでございます。
明石だこ
足が短く、太いのが特徴です。速い潮に流されまいと岩にしがみつくため、筋肉が発達するのだと言われます。
噛むほどに甘みが出る、しっかりした食感。明石焼き(玉子焼)にも、このたこが使われます。
明石焼き穴子
明石の穴子を、タレをつけて焼き上げたもの。ふっくらとして、甘辛いタレが香ばしい一品です。
そのままごはんにのせても、お椀に入れても美味しく、明石の食卓には欠かせないものでございました。
「でございました」と過去形で書いたのには、理由がございます。
次の章で、正直にお話しさせてくださいませ🐟
10. 正直なお話|明石の魚は、獲れなくなっています
ここからは、あまり明るい話ではございません。けれど、お伝えしておかなければならないことでございます。
明石鯛も、明石だこも、明石の焼き穴子も——近年、たいへん獲れなくなっております。
海の状態の変化など、さまざまな要因が重なっていると言われております。
指摘されている要因
- 海の栄養の変化 瀬戸内海では、海水中の栄養が減ってプランクトンが育ちにくくなっているのではないか、という指摘がございます。かつての水質汚濁対策が進んだ結果、今度は「きれいすぎる海」になったとも言われます
- 海水温の上昇 魚の生息域や産卵の時期が変わってきていると言われます
- 漁獲の影響
- その他、複合的な要因
※原因については、現在も研究と議論が続いております。ここに挙げたのは、よく指摘されている要因でございます。
結果として、何が起きているか。
明石の人でさえ、明石の魚を食べる機会が減ってしまったのでございます。
これは、地元の者としてたいへん寂しいことです。かつては当たり前に食卓にあったものが、今は「特別なごちそう」になってしまいました。
11. 明石めで鯛やと、明石のこと
ここで、当店のことも正直にお話しさせてくださいませ。
当店の鯛は、愛媛県産でございます
「明石めで鯛や」という屋号ですが、鯛そのものは愛媛県産でございます。脂のりのよいものを選んで使っております。
「明石」という名は、明石の料亭で受け継がれてきた味づくりに由来するもので、魚の産地を表すものではございません。
紛らわしいとお思いになるかもしれませんが、隠すことではないと思っておりますので、商品ページでもこの記事でも、はっきりと書かせていただいております。
ただし、明石のものも使っております
生鯛しゃぶには、明石の焼き穴子を入れております。
鯛をさっとくぐらせたあとの出汁に、焼き穴子の甘辛い香りが加わる。これが明石らしい味わいをつくってくれます。
数が限られておりますので、生鯛しゃぶは発送できる日が限られております(現在は木・金・土)。獲れる量に合わせて、無理をせずお出ししているという事情もございます。
明石の名を冠しながら、愛媛の鯛を使う。これを後ろめたく思ったことはございません。
私どもがお届けしているのは、明石の料亭で受け継がれてきた「味づくり」でございます。出汁の引き方、塩加減、火入れの加減。その技術は、明石という土地が育てたものです。
そして魚は、そのときにいちばんよいものを。それが誠実なやり方だと思っております😊
12. まとめ
この記事のポイント
- 明石海峡は日本屈指の急潮。速い潮に揉まれた魚は、身が締まって味が濃くなります
- 美味しさの理由は速い潮・豊富な餌・近い漁場・昼セリの仕組み
- 明石が「食通の集う町」なのは、獲れる・運べる・料理できるの三つがそろっているから
- 鯛には年に二度の旬。春は桜鯛(姿)、秋は紅葉鯛(味)
- 産卵直後の麦わら鯛という名まであるのが、先人の正直さです
- 春はイカナゴ、夏は明石だこと穴子、秋は紅葉鯛と新米、冬は寒鯛とノリ
- 関西には「睨み鯛」——三が日は鯛を見るだけにする風習があります
- 明石鯛・明石だこ・明石焼き穴子は、近年たいへん獲れなくなっております。明石の人でさえ、食べる機会が減ってしまいました
- 当店の鯛は愛媛県産。「明石」は料亭の味づくりに由来する屋号です
- 生鯛しゃぶには、明石の焼き穴子を入れております
明石の海は、変わってしまいました。けれど明石が育てた味づくりの技術は、こうして受け継がれております。
そして、季節ごとに鯛の名前を呼び分けてきた感性も。桜鯛、麦わら鯛、紅葉鯛、寒鯛——これを知っているだけで、食卓が少し豊かになると思うのです。
今度お魚を召し上がるときは、「今はどの季節の魚かな」と思ってみてくださいませ。きっと、味わいが変わりますよ🐟😊










女将のひとこと
明石で商いをしておりますと、この変化を肌で感じます。
昔は「今日は明石のたこがええのが入ったよ」という会話が、日常にございました。それが今は、なかなか言えなくなってしまいました。
海のことは、人の手ではどうにもならない部分がございます。けれど、だからこそ獲れたものを大切に、余さず使いたいと思うのです。
鯛の頭も、あらも、骨も。一尾を余さずいただく——日本に古くからあるその考え方が、今の時代にこそ大事なのではないかと思っております🐟