縁起物と日本の食!鯛・海老など食べ物に込められた願いと意味
こんにちは、明石めで鯛やの女将です🐟
黒豆は「まめに働けるように」、昆布は「よろこぶ」、海老は「腰が曲がるまで長生きできるように」。
日本人は、食べ物に願いを込めるということを、ずいぶん長いあいだ続けてまいりました。考えてみますと、これはなかなか不思議な文化です。食べてしまえばなくなるものに、どうしてこんなに意味を持たせてきたのでしょう。
そして数ある縁起物の中で、鯛はまちがいなくその筆頭でございます。鯛を扱う者として、この話は避けて通れません。
この記事では、食べ物に願いを込める日本の文化を、一覧でまとめてご紹介いたします。意味を知ってから食べると、同じ料理でも味わいが変わってまいりますよ😊
1. なぜ日本人は、食べ物に願いを込めるのでしょう
日本には古くから「言霊(ことだま)」という考え方がございます。言葉には力が宿っていて、口に出したことは現実になる、という信仰です。
だから縁起のよい言葉を使い、縁起の悪い言葉を避ける。結婚式で「切れる」「別れる」といった言葉を使わないのも、この流れでございます。
この言霊の感覚が、食べ物にも及びました。
縁起のよい名前の食べ物を食べれば、その願いが叶う。
「食べる」ことが特別だった理由
- 食べ物は体に入る 身につける物や飾る物と違って、食べ物は体の一部になります。願いを「取り込む」という感覚があったのでしょう
- 神様と分かち合うもの 神前に供えたものを下げていただく「直会(なおらい)」という考え方があります。食べることは、神様とつながることでもありました
- 年に一度しか食べられないものがあった 昔はご馳走が貴重でした。特別な日の特別な食べ物には、それだけで力があったのです
- 家族そろって同じものを食べる 同じ願いを、家族みんなで共有する。これが一体感を生みました
ちなみに、2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された際、評価された特徴のひとつが「年中行事との密接な関わり」でした。
つまり食べ物に願いを込める文化そのものが、世界に認められたということでもあるのですね🐟
2. 願いの込め方には、四つのパターンがあります
縁起物の由来を調べてみますと、だいたい四つに分けられます。
① 名前の音から
いちばん多いパターンです。言葉の響きが、別の縁起のよい言葉に通じる。
- 鯛(たい) → めでたい
- 昆布(こんぶ) → よろこぶ
- 豆(まめ) → まめに働く、まめに暮らす
- 勝栗(かちぐり) → 勝つ
- かぼちゃ(なんきん) → 「ん」が付く=運盛り
② 形や姿から
見た目が何かを連想させる、というパターンです。
- 海老 → 腰が曲がった姿が、長寿の老人のよう
- れんこん → 穴が開いている=先の見通しがきく
- 伊達巻 → 巻物の形=学問、知識
- 紅白かまぼこ → 半円の形=初日の出
- 栗きんとん → 黄金色=金運
③ 色から
日本では色そのものに意味がございます。
- 赤 魔除け、生命力。お祝いの色です
- 白 清浄、神聖
- 紅白 この組み合わせがお祝いの基本になります
- 黄金色 富、繁栄
④ 生態や性質から
その生き物の生き方そのものに、願いを重ねるパターンです。
- 数の子 → 卵の数が多い=子孫繁栄
- 鰤(ぶり) → 成長とともに名前が変わる出世魚=出世
- 鯛 → 長生きする魚=長寿
- 里芋 → 親芋に子芋がたくさん付く=子孫繁栄
- 柏の葉 → 新芽が出るまで古い葉が落ちない=家系が絶えない
こうして分類してみますと、日本人の連想の自由さに感心いたします。音でも、形でも、色でも、生き方でも。あらゆる角度から、めでたさを見つけ出しているのですね😊
3.【一覧】おせち料理に込められた意味
縁起物が集まる食卓といえば、やはりおせちでございます。
| 料理 | 込められた願い | 由来 |
|---|---|---|
| 黒豆 | 健康・勤勉 | 「まめに働き、まめに暮らす」 |
| 数の子 | 子孫繁栄 | 卵の数が非常に多いことから |
| 田作り(ごまめ) | 五穀豊穣 | かつて片口鰯を田の肥料にしたことから |
| たたきごぼう | 家の繁栄 | 根を深く張ることから。細く長く生きる意味も |
| 紅白かまぼこ | 魔除け・清浄 | 形は初日の出。紅は魔除け、白は清浄 |
| 伊達巻 | 学問成就 | 巻物の形に見えることから |
| 栗きんとん | 金運・豊かさ | 「金団」と書き、黄金色であることから |
| 昆布巻 | 喜び・長寿 | 「よろこぶ」の語呂合わせ |
| 紅白なます | 平和・平安 | 水引の形を表しています |
| 海老 | 長寿 | 腰が曲がるまで長生きできるように |
| 鰤(ぶり) | 出世 | 成長とともに名が変わる出世魚 |
| 鯛 | めでたさ全般 | 「めでたい」に通じ、祝いの膳の主役 |
| れんこん | 見通しのよさ | 穴が開いていて先が見通せることから |
| 里芋 | 子孫繁栄 | 親芋にたくさんの子芋が付くことから |
| くわい | 出世 | 大きな芽が出ることから「芽が出る」 |
| 手綱こんにゃく | 良縁・結束 | 結び目の形から |
| 八つ頭 | 出世 | 頭になるように、という願い |
一品ずつにこれだけの意味が込められている。おせちは「願いの詰め合わせ」なのですね。
しかも重箱に詰めるのは「めでたさを重ねる」という意味だと言われます。ここまで来ると、もはや執念のようなものを感じます🐟
4.【一覧】年中行事と縁起物の食べ物
お正月だけではございません。一年を通じて、日本の行事には食べ物がついて回ります。
| 時期 | 行事 | 食べ物と意味 |
|---|---|---|
| 1月1日〜 | お正月 | おせち、お雑煮、尾頭付きの鯛。年神様と食事を分かち合う |
| 1月7日 | 人日の節句 | 七草粥。無病息災と、正月疲れの胃を休める知恵 |
| 1月11日 | 鏡開き | 鏡餅をいただく。「切る」とは言わず「開く」 |
| 2月3日ごろ | 節分 | 福豆(年の数だけ)、恵方巻、柊鰯。鬼を払う |
| 3月3日 | ひな祭り | ちらし寿司、蛤のお吸い物(対の貝=良縁)、菱餅 |
| 5月5日 | 端午の節句 | 柏餅(家系が絶えない)、ちまき |
| 7月7日 | 七夕 | そうめん。天の川に見立てて |
| 7〜8月 | 土用の丑の日 | うなぎ。「う」の付くものを食べて夏を乗り切る |
| 9〜10月 | お月見 | 月見団子、里芋。収穫への感謝 |
| 12月22日ごろ | 冬至 | かぼちゃ(南瓜=なんきん)。「ん」の付くもので運を盛る |
| 12月31日 | 大晦日 | 年越しそば。細く長く生きる/切れやすいので厄を断つ |
面白いのは、同じ食べ物に正反対の意味が込められていることがある点です。
年越しそばがよい例です。「細く長く生きられるように」という説と、「そばは切れやすいから、一年の厄を断ち切る」という説。どちらも言われております。
どちらでもよいのでしょうね。大事なのは「願いを込めて食べる」ことであって、理屈のほうはあとから付いてきたのだと思います😊
5. 人生の節目に登場する縁起物
年中行事だけでなく、人生の節目にも縁起物は登場いたします。
| 節目 | 食べ物と意味 |
|---|---|
| お七夜・命名 | 赤飯。赤は魔除けの色 |
| お宮参り | 鯛、赤飯。無事に育つようにとの願い |
| お食い初め(百日祝い) | 尾頭付きの鯛、赤飯、煮物、吸い物、歯固め石。「一生食べ物に困りませんように」 |
| 初節句 | ちらし寿司、蛤/柏餅、ちまき |
| 七五三 | 千歳飴。細く長く、健やかに育つように |
| 入学・卒業 | 赤飯、鯛 |
| 結納・結婚 | 鯛、鰹節(勝男武士)、するめ(寿留女)、昆布(子生婦) |
| 長寿祝い | 鯛、赤飯。還暦・古希・喜寿・米寿など |
| 新築・開店 | 鯛、赤飯。商売繁盛を願って |
| 快気祝い | 「あとに残らないもの」。食べ物が王道です |
お気づきでしょうか。ほとんどすべての節目に、鯛が登場しているのです。
生まれてから、育って、結婚して、年を重ねるまで。日本人は人生の折々で、何度も鯛を食べてまいりました。
6. 鯛が「縁起物の王様」である理由
なぜ鯛だけが、これほど特別なのでしょう。
調べてみますと、理由がひとつではないのです。いくつもの条件が、たまたま一匹の魚に重なった——それが鯛でございました。
鯛が縁起物の筆頭である七つの理由
- ① 名前 「たい」が「めでたい」に通じる
- ② 色 美しい紅色。赤は魔除けの色、祝いの色です
- ③ 姿 堂々として品がある。尾頭付きで膳に載せたときの見栄えは随一です
- ④ 長寿 二十年以上生きる長命な魚。長寿にあやかります
- ⑤ 味 クセがなく上品。生でも焼いても煮ても美味しい
- ⑥ 恵比寿様 七福神の恵比寿様が、脇に鯛を抱えておられます。商売繁盛の神様と結びつきました
- ⑦ 傷みにくさ 「腐っても鯛」のことわざどおり。運ぶのが難しかった時代、これは大きな価値でした
名前、色、姿、長寿、味、信仰、実用。
これだけの条件がそろった食材は、ほかにございません。海老も昆布も素晴らしい縁起物ですが、ここまで多面的ではないのです。
鯛が「縁起物の王様」と呼ばれるのは、決して偶然ではなかったのですね😊
7. 鯛にまつわる、さらに深い話
尾頭付きの意味
お祝いの席で鯛が尾頭付きで出されるのは、頭から尾まで欠けることなくそろっている姿が、「物事を最初から最後まで全うする」という意味に重ねられてきたからです。
お祝い事が途中で途切れず、めでたく成就しますように、と。結婚式に鯛が欠かせないのも、この意味が大きいのでしょう。
「鯛の鯛」という小さな縁起物
鯛の胸びれの付け根には、鯛のかたちをした骨が入っております。これを「鯛の鯛(たいのたい)」と呼び、昔から幸運のお守りとされてきました。
一尾の鯛から、左右にひとつずつ。たった二つしか取れません。きれいに洗って乾かすと、そのままお守りとして残せます。
こんな小さな骨にまで名前をつけて大事にする。一尾を余さず食べる文化だからこそ生まれた縁起物でございますね。
「睨み鯛」という風習
京都を中心とした関西の一部には、睨み鯛(にらみだい)という風習がございます。
焼いた尾頭付きの鯛をお膳に飾り、三が日のあいだは箸をつけず、見るだけにする。そして三が日が明けてから、ようやくいただくのです。
理由は「お正月のあいだ、めでたいものを絶やさないため」。食べてしまうと、めでたさが消えてしまうから——。
食べ物を「食べずに飾る」という発想。縁起物としての鯛の地位が、どれほど高かったかがよく分かる風習でございます。
お食い初めの鯛
生後百日ごろに行うお食い初め。赤ちゃんに食べさせる真似をして、「一生食べ物に困りませんように」と願う儀式です。
ここでも主役は尾頭付きの鯛。人生で最初に出会う縁起物が鯛だというのは、日本人らしい話だと思います。
8. 海老・昆布・鰤|ほかの縁起物たち
鯛ばかり持ち上げては不公平ですので、ほかの縁起物にも触れておきましょう。
海老
腰が曲がった姿が長寿の老人を思わせることから、「腰が曲がるまで長生きできるように」。
さらに脱皮を繰り返して成長することから、成長や生まれ変わりの象徴とも。そして加熱すると赤くなるのも、お祝いの色として好まれた理由です。
昆布
「よろこぶ」の語呂合わせ。これはもう完璧な縁起物です。
さらに結納では「子生婦(こんぶ)」と書いて、子宝に恵まれるようにという願いを込めます。昆布は非常に長く伸びることから、末長い繁栄の意味も。
当店の鯛の昆布〆は、鯛と昆布という縁起物どうしの組み合わせでございます。「めでたい」と「よろこぶ」。ずいぶん贅沢な取り合わせですね😊
鰤(ぶり)
成長とともに名前が変わる出世魚。関東ではワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ、関西ではツバス→ハマチ→メジロ→ブリと変わります。
出世を願って、お正月や年取り魚として食べられてきました。西日本では年取り魚は鰤、東日本では鮭という違いもございます。
鰹節
結納では「勝男武士(かつおぶし)」と書きます。強い男性、という願いを込めた当て字です。
するめ
結納では「寿留女(するめ)」。日持ちすることから、末長い幸せを願います。
結納の品々の当て字は、ずいぶん凝っておりますね。音が同じなら意味を付け替えてしまうという、日本語の自由さがよく表れております🐟
9. 避けられる食べ物もあります
縁起のよいものがあれば、その逆もございます。
祝いの席で避けられるもの
- 4つ・9つの数 「死」「苦」を連想させます。盛り付けの数にも気をつけます
- 日本茶 弔事の返礼に使われることが多く、お祝いには避けられます
- 刃物 「縁を切る」に通じます(食べ物ではありませんが、贈り物として)
- 割れるもの 「割れる」「壊れる」を連想させます。ただし近年は「数が増える」と考えて許容されることも
- 梨 「無し」に通じるとして避ける地域も。逆に「有りの実」と呼び替えて使う地域もございます
- 塩昆布を「切る」 祝いの席では「切る」という言葉自体を避け、「開く」などと言い換えます
面白いのは、呼び方を変えれば使えるようになるということです。
梨を「有りの実」と呼び替える。鏡餅を「切る」ではなく「開く」と言う。言葉が現実を作るなら、言葉を変えればよいという発想なのですね。
なんともたくましい考え方で、私は好きでございます😊
10. 意味を知ると、食卓が面白くなります
縁起物の意味を「迷信」と片付けてしまうのは、少しもったいないと思うのです。
なぜなら、これは食卓で交わされる会話の種だからです。
食卓で話してみてください
- 「鯛はね、めでたいって意味なんだよ」 お子さまはきっと「へえ」と言ってくださいます
- 「この中にお守りの骨が入ってるんだよ」 鯛の鯛の話をすると、食卓が宝探しになります
- 「海老は腰が曲がるまで長生きって意味」 おじいさま・おばあさまのいる食卓で、ぜひ
- 「昆布はよろこぶ、だって」 語呂合わせの面白さは、年齢を問わず通じます
こういう話は、学校では習いません。食卓で聞いたことだけが、次の世代に伝わっていくのです。
お子さまが大人になって、自分の子どもに同じ話をする。そうやって千年続いてきたのでしょう。
難しく考えなくて大丈夫です。「めでたいね」と言いながら食べる。それだけで、もう受け継いでいることになるのですから🐟
縁起物を食卓へ
- 鯛のかぶと煮 電子レンジで温めるだけ。尾頭付きの格と、縁起物「鯛の鯛」を探す楽しみ付きです
- 鯛めしセット 炊飯器にセットしてスイッチを押すだけ。お祝いの日のごはんものに
- 幸せの鯛しゃぶセット ご家族そろって囲める、お祝いの鍋。小さなお子さまからご高齢の方まで
- 鯛の昆布〆 「めでたい」と「よろこぶ」の贅沢な組み合わせ。鯛と昆布とお塩だけで仕上げました
11. まとめ
この記事のポイント
- 日本人が食べ物に願いを込めるのは「言霊」の考え方から。言葉には力が宿るとされてきました
- 願いの込め方は①名前の音 ②形や姿 ③色 ④生態や性質の四パターン
- おせちは「願いの詰め合わせ」。一品ずつに意味があり、重箱は「めでたさを重ねる」
- 年中行事にも人生の節目にも縁起物が。ほとんどすべての節目に鯛が登場します
- 鯛が王様なのは名前・色・姿・長寿・味・恵比寿様・傷みにくさが重なったから
- 尾頭付きは「最初から最後まで全うする」という意味
- 「鯛の鯛」は胸びれの付け根にある縁起物の骨。一尾を余さず食べる文化から生まれました
- 関西には「睨み鯛」——三が日は鯛を見るだけにする風習があります
- 縁起の悪いものも、呼び方を変えれば使えるというたくましさも日本らしいところ
- 意味を知ると食卓の会話が増えます。「めでたいね」と言うだけで、受け継いだことになります
食べてしまえばなくなるものに、これほど意味を込めてきた。日本人は、ずいぶん欲張りで、ずいぶん言葉が好きな民族なのだと思います。
でも、そこがいいのではないでしょうか。ただお腹を満たすだけでなく、願いまで一緒にいただく。食卓がそれだけ豊かになります。
お祝いの日には、どうぞ鯛を。「めでたいね」のひとことを添えて、召し上がってくださいませ🐟😊










女将のひとこと
こうして一覧にしてみますと、改めて驚きます。鯛という魚は、日本人の人生にずっと寄り添ってきたのですね。
うちの娘が先日二十歳になりました。赤ちゃんの頃のお食い初めの写真を見返しますと、小さな口に鯛を運んでいる自分が写っております。
あのときは「一生食べ物に困りませんように」と願ったのでした。そして二十歳のお祝いにも、やはり鯛が食卓にのぼる。
縁起物というのは、こうやって人生の区切りに印をつけていく道具なのかもしれませんね🐟