明石めで鯛やの「もったいない」|鯛の頭と、古くなった海苔のこと

明石めで鯛やの「もったいない」|鯛の頭と、古くなった海苔のこと

こんにちは、明石めで鯛やの女将です🐟
今日は、少し変わったお話をさせてくださいませ。
「捨てられそうになったもの」のお話でございます。
以前、明石観光協会さまから「古くなった明石海苔を、なんとか活用できないか」というご相談をいただきました。そしてそのお手伝いをさせていただいたとき、私はあることに気づいたのです。
これは、鯛の仕事とまったく同じだと。
鯛の頭も、古くなった海苔も、「使いようがあるのに、捨てられてしまいそうなもの」という点では同じでございます。
この記事では、私どもが大事にしている「もったいない」という考え方について、お話しさせてくださいませ😊

目次

1. 明石観光協会さまからの、ご依頼

あるとき、明石観光協会さまからご相談をいただきました。

内容は、こういうものでございました。

「古くなった明石海苔を、なんとか活用できないか」

明石は、海苔の名産地でもあります

  • 鯛やたこの陰に隠れがちですが、兵庫県は全国有数の海苔の産地でございます
  • あかしのりは、香りの高さと味の濃さで知られております
  • 川から流れ込む栄養と、速い潮が運ぶ養分。そして適度な干満差
  • 冬が旬で、寒い時期に育った海苔は香りも味も濃くなります

そんなよい海苔が、ただ古くなったというだけで行き場を失ってしまう。

これは、もったいないことでございます。

そしてご相談くださった方も、同じように思っておられた。「捨てるには惜しい」と考える方がいて、そこに相談を持ちかけてくださった。それだけで、ありがたいことでございました🐟

2. 古くなった海苔は、なぜ価値が下がるのか

海苔は、時間が経つとどうなるのでしょう。

古くなった海苔に起きること

  • 香りが飛ぶ これがいちばん大きな変化でございます。海苔の命は香りですから
  • 湿気を吸う パリッとした食感が失われ、しなっとしてしまいます
  • 色が褪せる 艶のある黒から、赤みがかった色へ変わっていきます
  • 商品としての価値が下がる 贈り物や店頭には出しにくくなります

ここで大事なのは——味が悪くなるわけではないということでございます。

傷んでいるのでも、食べられなくなったのでもありません。香りが飛んで、見た目が落ちただけ。中身は、ちゃんとよい海苔のままなのです。

それなのに、商品としては出せなくなってしまう。これほどもったいない話もございません😊

3. では、どう活かすのか

考え方は、実はそれほど難しくございません。

失われたもの(香り・食感)に頼らない食べ方を考えればよいのでございます。

料理で補えること

  • 火を入れて、香りを呼び戻す 軽く炙るだけで、飛んでいた香りがいくらか戻ります
  • ほかの香りと合わせる ごま油、出汁、柚子。香りを足してしまうという考え方です
  • 食感を求めない料理にする 佃煮、ペースト、和え物。パリッとしている必要がない形に
  • 出汁の素材として使う 海苔は、溶かすとよい旨みが出ます
  • ほかの料理に混ぜ込む 衣に、ごはんに、たれに

そうやって、あかしのりを使ったメニューを開発させていただきました。

あかしのりを使ったメニュー|明石観光協会からの依頼で開発
明石観光協会さまからのご依頼で開発した、あかしのりのメニュー

料理というのは、不思議なものでございます。素材の欠点を補ったり、別の良さを引き出したりできる。そのための技術なのだと、改めて思いました。

「古いから使えない」ではなく、「古いなら、こう使う」。料理人の仕事とは、そういうものでございます🐟

4.『あまから手帖』に取り上げていただきました

そしてありがたいことに、この取り組みを関西の食の専門誌『あまから手帖』に取り上げていただきました。

あかしのりを使った料理|食品ロス削減の取り組み
あかしのりのメニュー|あまから手帖に掲載されました
関西の食の専門誌『あまから手帖』に取り上げていただきました

女将のひとこと

掲載していただいたときは、本当に嬉しゅうございました。
「美味しいものを作りました」という記事ではなく、「捨てられそうなものを、美味しくしました」という記事で載せていただけた。そこに意味があったと思っております。

明石といえば鯛とたこ。海苔はどうしても、その陰に隠れてしまいます。
けれどあかしのりは本当によいものでございます。香りが違うのです。地元の食材に光を当てる——そういう仕事ができたのは、嬉しいことでございました🐟

5. 気づいたこと|これは鯛の仕事と同じでした

この仕事をしているときに、ふと気づいたことがございます。

これは、鯛の仕事とまったく同じだ。

共通していること

  • どちらも「捨てられそうなもの」 古い海苔と、魚の頭やあら
  • どちらも「本当は美味しい」 価値がないのではなく、価値が見えにくいだけ
  • どちらも「手をかければ生きる」 そのための技術が、料理でございます
  • どちらも「手間がかかる」 だから、やらない人のほうが多いのです
  • そして、どちらも美味しい これがいちばん大事なところです

魚の頭は、身よりもずっと臭みが出やすい部位でございます。うろこは硬く、えらは残りやすく、血合いは洗いにくい。

手を抜けば、生臭くて食べられたものではありません。

だから多くの場合、捨てられてしまう。スーパーで鯛の頭だけ売っているのを見かけることは、あまりございませんでしょう。

けれどきちんと手をかければ、鯛の頭はこれほど上品なものかと驚くほどの味になるのです。頬肉の甘さ、目のまわりのゼラチン質、カマの脂。鯛のいちばん美味しいところは、実は頭まわりだとも言われます😊

6. 鯛は「捨てるところがない」魚です

鯛という魚は、本当によくできております。

捨てるところが、ほとんどないのです。

部位 使い道
身 刺身、昆布〆、しゃぶしゃぶ、焼き物、鯛めし
頭(かぶと) かぶと煮、かぶと焼き、潮汁。いちばん美味しいところとも
カマ 塩焼き、煮付け。脂がのっています
あら(中骨) 潮汁、あら炊き、味噌汁。出汁が抜群に出ます
皮 湯引きにして、さっぱりと
骨 よく乾かして揚げれば、骨せんべいに
白子・真子 煮付けなどで、立派な一品に
鯛の鯛 食べられませんが、縁起物のお守りになります

身を食べて、頭を煮て、あらで出汁をとって、骨は揚げて、最後に小さな骨をお守りにする。

一尾の魚から、ここまでのことができる。

これは、日本の食文化が長い時間をかけて育てた知恵でございます。「もったいない」という言葉が日本にあるのは、こういう食べ方をずっと続けてきたからだと思うのです🐟

女将のひとこと

女将は潮汁が大好きでございます。
大きなお椀にカマごと入れて、中骨も一緒に。三つ葉は絶対に入れる派です。昆布は入れたり入れなかったり、その日の気分で。

自宅では、鯛のあらで赤出汁や味噌汁を作ることもあります。あらから出るお出汁の力は本当にすごくて、ほかに何も要らないくらいです。

捨てようとしていたものが、いちばん美味しい。こういうことが、料理にはよくございますね😊

7. かぶと煮という料理が生まれた意味

鯛のかぶと煮という料理は、まさに「もったいない」から生まれたお品でございます。

考えてみてくださいませ。わざわざ頭だけを煮る料理です。

身のほうが食べやすく、見栄えもよく、骨も少ない。それなのに、あえて頭を使う。

なぜ頭を煮るのか

  • 頬肉が美味しいから 目の下のふっくらしたところ。身がしっかりしていて、甘みがあります
  • ゼラチン質が豊富だから 目のまわりのとろりとした部分
  • よい出汁が出るから 骨から出る旨みが、煮汁に溶け出します
  • 見た目に格があるから 尾頭付きは「最初から最後まで全うする」という意味。頭には格がございます
  • そして——捨てるのがもったいないから

最後の理由が、おそらくいちばん最初にあった理由でございましょう。

よい魚の頭を、捨てるのは惜しい。どうにか美味しく食べられないか。——そこから工夫が始まって、何百年もかけて一つの料理になったのです。

下処理を丁寧にして、霜降りをして、じっくり煮込む。手間はかかりますが、そのぶん報われる。「もったいない」が、ご馳走に変わったのでございます🐟

8.「鯛の鯛」という、小さな縁起物

もうひとつ、「もったいない」の精神が生んだものがございます。

「鯛の鯛(たいのたい)」でございます。

鯛の鯛とは

鯛の胸びれの付け根には、鯛のかたちをした骨が入っております。

これを昔から「鯛の鯛」と呼び、縁起物・幸運のお守りとして大切にされてまいりました。

一尾の鯛から、左右にひとつずつ。たった二つしか取れません。

きれいに洗って乾かすと、そのままお守りとして残せます。

ここで考えていただきたいのです。

骨にまで名前をつけて、お守りにする。

これは、一尾を余さず食べる文化だからこそ生まれたものだと思うのです。

身だけを食べて、あとは捨てる。そういう食べ方をしていたら、胸びれの付け根に面白い形の骨があることなど、誰も気づきません。

骨までしゃぶるように食べていたから、見つけた。そして「鯛みたいな形だ」と面白がって、名前をつけて、お守りにした。

なんとも愛らしい話ではございませんか😊

9. 美味アワードの審査基準にあったこと

少し話は変わりますが——

明石めで鯛やの「名物 鯛のかぶと煮」が、「食べるJAPAN 美味アワード2023」でグランプリをいただきました。

そのときの審査基準に、こういうものがございました。

食べるJAPAN 美味アワードの審査基準

  • 味
  • 品質
  • 地域特性の活かし方
  • 背景にあるストーリー
  • SDGsへの取り組み

※主催:一般社団法人ChefooDo/審査委員長:服部幸應先生(服部栄養専門学校 校長)
書類審査を通過した154品を、全審査員が実際に食べて審査。グランプリは1品でございました。

味や品質だけでなく、「なぜこれを作っているのか」まで審査される——。

私はこの基準を知ったとき、よい賞だと思いました。

食べ物は、美味しいだけでは足りない。どういう素材を、どう扱って、何を考えて作っているか。そこまで含めて食べ物なのだと、認めてくださる賞でございます。

かぶと煮は、もともと「捨てるのがもったいない」から生まれた料理です。地味な下処理を積み重ねて作るお品です。

その見えないところを、きちんと食べて評価してくださった。それが何より嬉しかったのでございます🐟

10. 魚が獲れなくなっている、今だからこそ

そして、正直なお話もしておかなければなりません。

明石の魚は、たいへん獲れなくなっております。

今、起きていること

  • 明石鯛も、明石だこも、明石の焼き穴子も——漁獲量が大きく減っております
  • 海苔の「色落ち」も各地で報告されております。海の栄養が減っているためではないかと指摘されます
  • 海水温の上昇、漁業者の減少と高齢化
  • 結果として、明石の人でさえ、明石の魚を食べる機会が減ってしまいました

※原因については、現在も研究と議論が続いております。

かつては当たり前に食卓にあったものが、今は「特別なごちそう」になってしまいました。

海のことは、人の手ではどうにもならない部分がございます。

けれど、だからこそ——

獲れたものを大切に、余さず使いたい。

鯛の頭も、あらも、骨も。古くなった海苔も。使いようがあるものを、捨てない。

これが、作り手にできる数少ないことではないかと思っております😊

11. ご家庭でもできる「もったいない」

最後に、ご家庭でもできる工夫をいくつかご紹介させてくださいませ。

どれも難しいことではございません。

古くなった海苔を活かす

  • 軽く炙る ガスの火でさっと。飛んでいた香りが、いくらか戻ります。焦がさないようご注意を
  • 佃煮にする 細かくちぎって、醤油・みりん・酒で煮詰めるだけ。ごはんのお供になります
  • 味噌汁に入れる ちぎって落とすだけ。磯の香りが立ちます
  • ごはんに混ぜ込む ちぎって、ごま油と塩少々と一緒に。おにぎりにも
  • 衣に混ぜる 天ぷらの衣に加えると、磯辺揚げ風に
  • 和え物に ほうれん草や豆腐と和えて
  • パスタに オリーブオイルと醤油、海苔。これが意外と美味しいのです

※保存は乾燥剤と一緒に、密閉して冷凍がおすすめです。湿気と光が海苔の敵でございます。

魚を余さず使う

  • あらで潮汁 あらと昆布と塩だけ。驚くほど美味しくなります。三つ葉を忘れずに
  • あらで味噌汁・赤出汁 女将も自宅でよく作ります
  • 残った魚はそぼろに 焼き魚も、刺身も、煮魚も。身をほぐして骨を取り、弱火で炒りつければ、翌日のごはんのお供に
  • 骨は揚げて骨せんべい よく乾かしてから、低温でじっくり
  • 皮は湯引きに さっと熱湯をかけて、氷水に取る
  • 煮汁は捨てない 豆腐を入れて温め直せば、翌日のもう一品になります

※骨の処理は念入りに。特に小さなお子さまやご高齢の方が召し上がる場合は、大人の方が確かめてからお出しくださいませ。

どれも、ほんの少しの手間でございます。

けれどその手間をかけるかどうかで、捨てるはずだったものが翌日のごはんのお供になる。これは、なかなか気持ちのよいものですよ🐟

12. まとめ

この記事のポイント

  • 明石観光協会さまから「古くなった明石海苔を活用できないか」というご依頼をいただき、メニューを開発いたしました
  • 古い海苔は香りが飛び、食感が落ちるだけ。味が悪くなったわけではございません
  • だから香りと食感に頼らない食べ方にすれば、十分に美味しくいただけます
  • この取り組みを『あまから手帖』に取り上げていただきました
  • そして気づいたのは——これは鯛の仕事とまったく同じだということ
  • 鯛は捨てるところがない魚。身、頭、カマ、あら、皮、骨、そして「鯛の鯛」
  • かぶと煮は「もったいない」から生まれた料理。それが何百年かけてご馳走になりました
  • 「鯛の鯛」という縁起物があるのも、骨まで食べる文化だったから見つかったもの
  • 美味アワードの審査基準には「背景にあるストーリー」「SDGsへの取り組み」も含まれておりました
  • 魚が獲れなくなっている今だからこそ、獲れたものを余さず使いたいと思っております

「もったいない」という言葉は、日本語にしかないと言われます。

物を粗末にしないという意味だけでなく、「そのものの価値を活かしきれていないことが惜しい」という意味が含まれているのだそうです。

古くなった海苔も、鯛の頭も、まさにそれでございます。価値がないのではなく、価値が見えにくくなっているだけ。

それを見つけて、手をかけて、美味しくする。——これが料理人の仕事なのだと、私は思っております。

明石めで鯛やは、これからも見えないところに手をかけ続けてまいります。気づいてくださる方がいらっしゃれば、それだけで十分でございます🐟😊

※当店の鯛は愛媛県産でございます。「明石」は、明石の料亭で受け継がれた味づくりに由来する屋号で、魚の産地ではございません。
※鯛のかぶと煮は毎月5日にも限定販売しております。

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