和食が世界遺産になった理由!日本の食文化が世界に認められた背景
こんにちは、明石めで鯛やの女将です🐟
2013年12月、「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されました。当時はニュースでも大きく取り上げられ、「お寿司や天ぷらが世界遺産になった」と喜ばれた方も多かったと思います。
ところが実は、登録されたのは料理そのものではないのです。ここは今でも誤解されているところでして、本当に評価されたのはもっと別のものでした。
そして登録名には「正月を例として」という副題がついております。つまりユネスコが注目したのは、お正月のような「祝いの食卓」だったのですね。
鯛を扱う者として、この話はどうしてもお伝えしたくなります。少しお付き合いくださいませ😊
1. 2013年、和食がユネスコ無形文化遺産に
2013年12月、アゼルバイジャンで開かれたユネスコの政府間委員会で、「和食;日本人の伝統的な食文化」が無形文化遺産に登録されました。
そして、この登録名には副題がついております。
「和食;日本人の伝統的な食文化 ―正月を例として―」
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところでございます。あとで詳しくお話しいたします。
まず確認しておきたいのは、無形文化遺産とは何かということです。
「無形」文化遺産とは
世界遺産というと、お城や神社、自然の景観など形のあるものを思い浮かべます。姫路城や白神山地などがそうですね。
一方、無形文化遺産は形のないものが対象です。芸能、工芸技術、祭礼、社会的な慣習など。日本では能楽、歌舞伎、人形浄瑠璃文楽、和紙、山・鉾・屋台行事などが登録されております。
つまり、人から人へ受け継がれていく「わざ」や「習わし」を守ろうという仕組みでございます。
2. よくある誤解|登録されたのは「料理」ではありません
さて、ここが大事なところです。
お寿司が世界遺産になったわけでも、天ぷらが世界遺産になったわけでもございません。
登録されたのは「日本人の伝統的な食文化」、つまり食に関わる社会的な慣習のほうなのです。
登録されたのは、こういうこと
- 自然を尊重する日本人の精神が、食に表れていること
- 年中行事と食が結びついていること(お正月、節句、お盆など)
- 家族や地域の人々が食卓を共にして、絆を深めてきたこと
- 季節を料理や盛り付けで表現してきたこと
- これらが、人から人へ受け継がれてきたこと
なぜこう言えるかというと、無形文化遺産は「料理そのもの」を登録する仕組みではないからです。
世界中に美味しい料理はいくらでもあります。けれどユネスコが守ろうとしているのは「その料理を作り、囲み、受け継いでいく人々の営み」のほうなのですね。
ですから正しくは——「日本人が食とどう向き合ってきたか」が世界に認められた、ということになります。こちらのほうが、ずっと誇らしいことだと私は思っております😊
3. ユネスコが評価した、和食の四つの特徴
登録にあたって示された、和食の特徴は四つございます。
① 多様で新鮮な食材と、その持ち味の尊重
日本は南北に長く、海に囲まれ、四季がはっきりしています。だから食材が驚くほど多様です。
そして和食は、その食材の味を「引き出す」ことを大事にします。濃い味付けで覆うのではなく、素材そのものの持ち味を生かす。これが和食の基本の姿勢です。
② 健康的な食生活を支える栄養バランス
一汁三菜を基本とした献立は、栄養のバランスがとりやすいかたちです。動物性の脂を多用せず、だしの旨みを生かすため、結果として健康的な食事になりやすい。世界的に日本の食事が注目されるのは、この点が大きいです。
③ 自然の美しさや季節の移ろいの表現
季節の花をあしらう、旬の食材を使う、季節に合わせて器を変える。「食卓に季節を持ち込む」という発想は、世界的に見ても際立っています。
春の木の芽、夏のガラスの器、秋の紅葉、冬の鍋。考えてみれば、ずいぶん手の込んだことをしているのですね。
④ 正月などの年中行事との密接な関わり
そして四つ目が、この記事の主役でございます。日本の食は、年中行事と切り離せないかたちで発展してきました。
4.「正月を例として」という副題の意味
登録名に「―正月を例として―」とついているのは、偶然ではありません。
日本の食文化のいちばんの特徴が、お正月にもっともよく表れているからです。
お正月の食卓に込められたもの
- 神様と食事を分かち合う おせちやお雑煮は、年神様にお供えしたものを家族でいただくという考え方から生まれました
- 料理のひとつひとつに意味がある 黒豆は「まめに働く」、数の子は「子孫繁栄」、昆布巻きは「よろこぶ」。食べ物に願いを込めるという文化です
- 家族が集まる 離れて暮らす家族が帰ってきて、同じ食卓を囲む。食が人をつなぐ役割を果たしています
- 作り置きの知恵 おせちが日持ちするように作られているのは、三が日に台所仕事を休むためとも言われます
- 年に一度、特別な器を出す 重箱や祝い箸。ふだんと違う道具が、ハレの日を作ります
つまりお正月の食卓には、「自然への感謝」「願いを込める」「家族をつなぐ」「季節を区切る」——和食文化の要素がすべて詰まっているのです。
だからユネスコは「正月を例として」と書いた。日本人の食文化を説明するのに、これ以上ふさわしい例がなかったのでしょうね🐟
5. 世界には、ほかにどんな食の遺産があるのでしょう
和食のほかにも、世界には食に関する無形文化遺産がいくつも登録されております。
| 名称 | 国・地域 | 評価された点 |
|---|---|---|
| フランスの美食術 | フランス | 人生の節目を祝う会食の習慣 |
| 地中海の食事 | スペイン・イタリア・ギリシャ・モロッコなど | 食材の共有と社会的なつながり |
| メキシコの伝統料理 | メキシコ | とうもろこし栽培から調理までの体系 |
| キムジャン(キムチ作り) | 韓国 | 地域で分かち合う共同作業 |
| 和食 | 日本 | 自然の尊重と年中行事との結びつき |
こうして並べますと、共通点が見えてまいりませんか。
どれも「料理の味」ではなく「人と人のつながり方」が評価されているのです。
フランスは会食の習慣、地中海は食材の共有、韓国はキムチを一緒に漬ける共同作業。そして日本は年中行事と家族の食卓。
食べることは、生きるためだけの行為ではない。人をつなぐための行為でもある。世界はそこを守ろうとしているのですね😊
6. なぜ登録を目指したのか|危機感があったから
ところで、なぜ日本はわざわざ登録を目指したのでしょう。
理由は、はっきりしております。和食が失われつつあるという危機感があったからです。
当時、心配されていたこと
- 家庭でだしをとらなくなった 顆粒だしが悪いわけではありませんが、昆布や鰹節からだしを引く家庭が減りました
- 年中行事が簡略化された おせちを作らない、節句の料理をしない。忙しさの中で、少しずつ省かれていきます
- 食事の洋風化 ごはんと汁ものという基本のかたちが崩れてきました
- 家族そろって食べる機会の減少 生活時間がばらばらになり、一人で食べることが増えました
- 魚離れ 下ごしらえの手間から、魚を敬遠する家庭が増えました
- 受け継ぐ人がいない 母から娘へ、祖母から孫へ。この流れが細くなってきました
無形文化遺産というのは、「なくなりそうなものを守る」仕組みでもあります。登録されたということは、裏を返せば「放っておくと消えてしまう」と認められたということでもあるのですね。
登録から十年以上が経ちました。和食は守られているでしょうか。少し心もとない気もいたします。
7. 和食を支える「うま味」という発見
和食を語るうえで欠かせないのが「うま味」です。
甘味、酸味、塩味、苦味。この四つが長く基本の味とされてきましたが、日本の研究者が五つ目の味を見つけました。
1908年、池田菊苗博士が昆布だしの旨みの正体を突き止め、グルタミン酸と名づけます。この「うま味」という日本語は、今では「umami」として世界共通の言葉になりました。
和食のだしを支えるもの
- 昆布 グルタミン酸。すっきりとした上品な旨み
- 鰹節 イノシン酸。香り高く、力のある旨み
- 干し椎茸 グアニル酸。深みのある旨み
- 魚のあら 骨や頭からも、たっぷりと旨みが出ます
※昆布と鰹節を合わせると旨みが強く感じられることが知られており、和食の合わせだしはこの知恵の上に成り立っています。
和食が「薄味なのに満足できる」のは、このうま味のおかげです。塩や脂に頼らず、だしの力で満足感を作る。これは本当によくできた仕組みだと思います。
鯛も、たいへん良い出汁の出る魚でございます。あらや骨から引いた潮汁は、塩だけで驚くほど美味しくなります。何も足さなくてよい——これこそ、うま味の文化の真骨頂ですね🐟
当店の鯛の昆布〆は、鯛と昆布、そしてお塩だけで仕上げたお品です。余計なものは何も入れておりません。だからこそ、お塩加減がごまかしのきかない勝負どころになります。まさにうま味の文化を味わっていただけるお品だと思っております。
8. 一汁三菜という、よくできた設計
和食の基本のかたちが一汁三菜です。
一汁三菜の構成
- ごはん 主食。炭水化物
- 汁もの 味噌汁や吸い物。水分と塩分、そして野菜も
- 主菜 魚や肉、豆腐など。たんぱく質
- 副菜 野菜の煮物やおひたし。ビタミン、ミネラル、食物繊維
- 副々菜 和え物や酢の物など、もう一品
- (ほかに漬物を添えるのが一般的です)
栄養学という言葉がなかった時代に、これだけバランスのとれたかたちが出来上がっていたというのは、驚くべきことです。
しかも器を別々に分けるのが和食の特徴です。ひとつの皿に盛り合わせるのではなく、小鉢をいくつも並べる。これは味が混ざらないようにする工夫でもあり、見た目を美しくする工夫でもあります。
もちろん、毎日一汁三菜を作るのは大変です。現代の暮らしでは難しいことも多いでしょう。
けれど「汁ものを一品つける」だけでも、ずいぶん和食らしくなります。これならできそうではありませんか😊
9. 祝いの食卓と鯛|「睨み鯛」という風習
「正月を例として」という副題に戻りましょう。
お正月の食卓といえば、おせち、お雑煮。そして関西では尾頭付きの鯛でございます。
ここで、面白い風習をご紹介させてくださいませ。
「睨み鯛(にらみだい)」をご存じですか
京都を中心とした関西の一部に伝わる、お正月の風習です。
焼いた尾頭付きの鯛をお膳に飾り、三が日のあいだは箸をつけず、見るだけ(睨むだけ)にする。そして三が日が明けてから、ようやくいただくのです。
なぜそんなことをするのか。「お正月のあいだ、めでたいものを絶やさないため」と言われます。食べてしまうと、めでたさが消えてしまう。だから見て楽しむ、というわけですね。
なんとも贅沢で、なんとも日本らしい習わしだと思いませんか。
食べ物を「食べずに飾る」という発想。これはもう、栄養や味の話ではありません。鯛という魚が、それだけ特別な存在だったということです。
ユネスコが評価した「食べ物に願いを込める文化」が、これ以上ないかたちで表れている風習だと思います。
鯛が祝いの席に欠かせないのは、「めでたい」に通じる名前だけが理由ではありません。美しい紅色、堂々とした姿、長く生きる魚であること、そして七福神の恵比寿様が抱えておられること。
いくつもの理由が重なって、鯛は「日本人の祝いの魚」になりました。これもまた、受け継がれてきた食文化のひとつでございます。
10. 家庭で和食を続けていくために
和食が無形文化遺産に登録されたからといって、何かが自動的に守られるわけではありません。
守るのは、日々の食卓でございます。
とはいえ、毎日だしを引いて一汁三菜を作るのは、現実には難しいことです。女将も正直に申しまして、毎日はできておりません。
無理なくできそうなこと
- 汁ものを一品つける これだけで、ずいぶん和食らしくなります
- 年に何度か、行事の食卓を作る お正月、節分、ひな祭り、お月見。全部でなくていいのです
- 季節のものを一品入れる 旬の野菜、旬の魚。それだけで季節が食卓に来ます
- 器を使い分ける 小鉢をいくつか出すだけで、和食の形になります
- お子さまに「意味」を話す 「鯛はめでたいって意味なんだよ」。これが受け継ぐということです
- たまには手を抜く 続けることのほうが大事です。無理をすると、やめてしまいますから
明石めで鯛やのお品は、下ごしらえを済ませてお届けしております。
手抜きのためではございません。「面倒だから」という理由で、和の食卓が減ってしまわないようにと思ってのことです。
手間をかけずに、和の食卓を
- 鯛めしセット 炊飯器にセットしてスイッチを押すだけ。瀬戸内に古くから伝わる郷土の味です
- 鯛のかぶと煮 電子レンジで温めるだけ。一尾を余さず食べる文化を、手軽に
- 幸せの鯛しゃぶセット 鍋ひとつで食卓が完成。締めの雑炊まで、だしの旨みを余さず
- 鯛の昆布〆 鯛と昆布とお塩だけ。うま味の文化そのもののお品です
11. まとめ
この記事のポイント
- 2013年12月、「和食;日本人の伝統的な食文化 ―正月を例として―」がユネスコ無形文化遺産に登録されました
- お寿司や天ぷらが登録されたのではありません。評価されたのは「日本人が食とどう向き合ってきたか」です
- 四つの特徴は①多様な食材と持ち味の尊重 ②栄養バランス ③季節の表現 ④年中行事との結びつき
- 副題が「正月を例として」なのは、お正月の食卓に和食文化のすべてが詰まっているから
- 世界の食の遺産はどれも「料理の味」ではなく「人のつながり方」が評価されています
- 登録を目指したのは和食が失われつつあるという危機感から
- 和食を支えるのは「うま味(umami)」。塩や脂に頼らず満足感を作る仕組みです
- 関西には「睨み鯛」という、三が日は鯛を見るだけにする風習があります
- 守るのは日々の食卓。汁ものを一品つけるだけでも和食らしくなります
和食が世界に認められたのは、料理が美味しいからではありませんでした。食べることを通じて、人が自然とつながり、人とつながってきたからです。
お正月に家族が集まって、尾頭付きの鯛を囲む。「めでたいねえ」と言い合う。それだけのことが、世界に認められた文化なのですね。
今年のお正月も、どうぞ鯛を囲んでくださいませ。難しいことは考えなくて大丈夫です。ただ「めでたいね」と言っていただければ、それがもう、受け継ぐということなのですから🐟😊










女将のひとこと
睨み鯛の話を知ったとき、私は「ずいぶん我慢強いものだ」と笑ってしまいました。目の前に立派な鯛があるのに、三日も食べないのですから。
でも考えてみますと、これは「待つ」という豊かさなのかもしれません。すぐ手に入って、すぐ食べられる今の時代に、三日待つ食べ物があるというのは。
鯛を扱う者として、こういう習わしが残っていることを、ありがたく思っております🐟